一年前に過ごした土地の風景を少し懐かしく感じた。
この公園に来るのはきっかり一年ぶり。

墓標の為に埋め込んだ石は移動することなく、ちゃんと俺達に「その場所」を示してくれていた。
しゃがんで手を合わす彼女の後ろからその石を睨みつける。


おい。

元気かよ、クソネコ。















< メ ロ 『 ネ コ の お 墓 。 』 >















夕暮れ近くの公園には、俺達以外誰もいなかった。
そんな公園の一角の、木の根元に「それ」はある。

以前俺達が飼っていた猫の墓だ。



飼っていたといっても俺が一緒にいたのはほんの一年ほど。
出逢った時にはすでに彼女のもとで歳を重ねていたその猫は、愛らしいというよりふてぶてしい顔をしていた。

体が弱くてなかなか外に出れない彼女の、幼い頃からの一番の友達だったらしい。
そのせいか彼女にばかりよく懐いて、俺をライバル視していたようだ。
彼女はよくケンカ腰の俺を見て「猫が二匹に増えたみたい」と苦笑を漏らしていた。


そんなクソネコが逝ったのはちょうど一年前の今日。


寿命だったのだろう。

亡くなる直前、珍しく俺に擦り寄ってきたアイツ。

まるで彼女のことを俺に頼んだみたいだった。


不覚にも涙が、出た。






一際強く吹いた風に、枯葉が舞う。
黒いコートがはためく。
肌がぴりっと痛んだのは、風が冷たくなってきた証拠だ。

いつまでもしゃがみこんでる彼女の右に、俺もしゃがみこんだ。



「おい、そろそろ体に障るから、帰るぞ」

「うん………」



ずずっ、とすすった鼻音には気付かないふりをした。
きっと泣いているのだろう。



去年もコイツはいつまでもいつまでも泣いて。
そのまま衰弱していってしまうのではないかと焦った。

この一年で以前よりは体が丈夫になった。
クソネコが生きていれば喜んだだろう。



けれど、時々。

儚く、見えて。


こいつも、クソネコ、みたいに…。





「なぁ………、」

「うん?」

「まだ、クソネコには会いに逝くなよな」



弱々しげに言った俺に、彼女は苦笑する。



「わかってるよ、縁起悪いなぁ」

「………」

「…メロもだよ?」



そっと俺の頬に触れ、彼女がその髪を上げた。
俺の傷跡を、少し悲しそうに確認する。



「ぁぁ」

「私、心配のしすぎでコロッと逝きそうだよ」

「ばっか………!」



眉間に皺をよせ、吐き捨てた言葉に彼女がくすくす笑う。



「だったら心配かけないでよ」

「………心がけるよ」



彼女がやっと立ち上がったので、俺も立ち上がる。
夕陽が落ちて、街明かりがぽつぽつと薄闇に浮かんでいる。





「お前のこと、任されたしな」





そう言って取った手はやっぱり冷たくなっていて。


繋いだ手を、俺は黙ってそのままポケットにつっこんだ。