息をする度に、何だか熱が喉のあたりで渦巻く。
身体はだるいのに、散々寝たから意識ははっきりしている。
< ニ ア 『 美 味 し い ご 飯 。 』 >
久しぶりに風邪をひいた。
油断してたなぁ…濡れた髪乾かすの忘れたまま寝たのはマズかったかな。
「あなたは注意不足ですね」
て、この間ニアに言われたっけ。
全くそのとおりだよ、ホント。
風邪菌と戦うことで身体は熱を生じ、疲労感が身体を襲う。
知らない内に疲れていたらしく、昼に寝始め、起きたら日はとっくに暮れていた。
部屋には誰もいない。
廊下にも誰もいない。
でも。
ほのか遠くから楽しそうな声が聞こえた。
あぁそうか、皆で夕ご飯の時間か。
今から行ってもいいけど、風邪うつすからダメって言われそう。
あとでロジャーが病人食持ってくるんだろうな。
………………。
布団に、潜り込んだ。
寝ようとしても目は冴えてしまっていて。
皆のおしゃべり声がかすかに耳に届く。
私のいる部屋は逆に静かで、ごそりと動けば、布団の衣擦れの音ですらよく響く。
風邪の時って、なんでこんなに心細いんだろう。
どうしてこんなに寂しいのだろう。
そういえば今日の夕食にはハンバーグが出るんだっけ。
あぁ、なんだってこんな日に!
道理でみんな楽しそうなはずだよね。
なんだか世界中に仲間ハズレにされた気分だ。
そんなんじゃない、てわかっているけれど。
なんだか涙が溢れてくる。
ほら、あれだ。
情緒不安定、ってやつ。
もっと深く、布団に潜り込んだ。
寝たい、寝てしまいたい。
余計なコト、考えたくないんだ。
全てを否定して、ぎゅっと目を閉じたその時。
「起きていますか?」
カタン、と音がして、ニアの声。
驚いて思わずがばっと起き上がった。
「……泣いていたんですか」
さらりと言われて、今度は私、慌てて布団に潜りなおした。
見られた。
見られた。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「まぁ、そこそこに元気そうですね」
ニアはそれ以上私の涙について言及しなかった。
ニアの足音が、黙り込んだ私に近づいてくる。
それと共に、鼻腔をくすぐるアノ香りは………。
「はんばーぐ…」
ぽつりと呟いて布団からちょっと顔を覗かせた。
ニアの手にはお盆が、その上にはご飯が乗っている。
「食べられますか?」
私はこくこくと頷いて起き上がった。
そのままベッドの上に座った状態で、お盆を受け取る。
お盆の上には病人食……それと、場違いな雰囲気のハンバーグが、半分。
もしかして…。
「これ、ニアの?」
ベッドの隣の椅子に座ったニアに尋ねる。
「好きでしょう?…ロジャーには内緒ですよ」
「ぇ!いいの?いいの??」
「はい」
ぅゎぁ、ぅゎぁ、ぅゎあ。
私は目を輝かせて、じゃぁ………と、手を合わせてから早速一口、ぱくつく。
口中に肉汁が広がり、私はしっかりと噛みしめた。
まだ、温かかった。
「ぁ、あれ?なんだ、コレ」
気がつけば。
涙がつぅっと頬を伝っている。
ニアが驚いた顔して、こっち見た。
「ど、どうしたのですか。」
「ぇ、えと、何か、きっと………多分、私寂しかったの。だから、ニアが来てくれて、嬉しいの」
そう、独りぼっちの部屋はとてもとても寂しくて。
でも、ニアが来てくれて。
「……私も、寂しかった。だから、来ました」
「ぇ、え?」
「美味しいですか?」
何か、今何かニア言った気がする。
けれど、それを反芻する前に畳み掛けるように尋ねられて。
「ぅんっ!今まで食べた中で一番美味しい!!」
私にできる満面の笑みで答えた。
「そうですか」
ニアも軽く、微笑んだ。
一緒にいたら風邪うつるよ?て言っても、私は健康だからいいんです…だって。
ちょっと納得いかなかったけど、それ以上は言わなかった。
だってニアと一緒に食べるご飯が、最高に美味しいんだもの。