「あのね、L。一緒に映った写真が欲しいの」
彼女のこの言葉に、私はすっかり参ってしまった。
しかも珍しく強情だから、なおさらだ。
< L 『 破 れ た 写 真 。 』( キ ャ ラ メ ル ver. ) >
キラ事件について私が関与し始めた頃。
ある日彼女はぽつりと言った。
「写真が欲しい」
しかもその言葉は長く心で熟されていたらしい。
珍しく強情な彼女。
普段はものわかりがいいのに、これだけは譲らない。
祖父であるワタリの言葉にも耳を貸さない。
ただ、撮らせて、と言う。
その都度に私は首を横に振り、彼女は肩を落とす。
「絶対迷惑かけない。フィルムも写真も燃やすから」
それでは撮る意味がないでしょう。
そう言えば今度は彼女が首を横に振る。
「私がしたことに文句があれば、後始末は言うとおりにするよ」
………私は、顔を知られる云々以前に写真など撮りたくなかった。
私に関するものを彼女に遺したくなかった。
私も彼女も知っている。
いつまでも続く永遠なんてないことを。
だから、遺したくなかった。
けれど……彼女の瞳に宿る光を、私は結局どうすることもできなかった。
ある、晴れた日。
ホテルでワタリに写真を撮ってもらった。
一瞬まぶたに焼きついたフラッシュが、目に痛かった。
写真はその場で現像。
フィルムはすぐに燃された。
「どうですか」
彼女が写真をまじまじと見つめている。
私は脇からのぞき込んだ。
写真に映った2人の男女。
その寄り添うような格好に、何故か胸がちくりと痛んだ。
「うん…、」
これをどうするつもりなのか。
彼女はすぅ、と深呼吸すると。
ビリ…………ッ
私と彼女の目の前で、写真は無惨にまっぷたつ。
びりびりびりびり……
彼女の手の中で写真はさらに破片になってゆく。
そうして彼女はその中から、私と彼女の顔の部分にあたるものだけを取り出し、燃した。
残りの破片をかき集め、とても大事そうに小さな可愛らしい小箱に入れる。
私はその様をただ見つめていた。
ワタリがそっと部屋から下がるのがわかった。
なんだかとてもやるせない時間が流れた。
写真をしまう間、二人とも押し黙っていた。
彼女の伏せた睫毛が、今にも震えるのではないかと思った。
けれど彼女は泣かなかった。
まるで写真の欠片が聖遺物であるかのように、彼女は大切そうに小箱へとすべてしまいこんだ。
その小箱を持って、くるりと振り返る。
「……だめ?」
だめだなんて、言えない。
言いたく、ない。
答えるかわりに、そのまま黙って抱きしめた。
「…大切にしてください」
「うん」
私に関するものを彼女に遺したくない、だなんて、嘘だ。
本当は遺したい。
それほど私は善人ではない。
もしこの先どうかなっても、忘れないでいて欲しい、だなんて。
そんなこと、いけない。
いけない。
でも。
抱きしめる力が、強くなる。
「いつかちゃんとしたの、撮ろうね」
そんな日が来るのだろうか。
写真を破らなくてもいい、日が。
「……そうですね」
風が吹いて、かさり、と写真とフィルムの灰が崩れた。