がららっ
「やっほー、メロ」
また来た。
コイツにとって俺の部屋の扉は、どうやら窓らしい。
< メ ロ 『 自 室 の 扉 。 』 >
このアジトに来て数ヶ月。
そろそろ移動する時期だとは思う。
なのに移動する気が起きないのは、認めたくはないが今目の前にいる女のせいらしい。
女は窓から俺の部屋に侵入した後、のんびりとパソコンをいじっている。
職業は「しがない小説家」だとか…。
数ヶ月前、この廃屋のようなアジトに来て自室を与えられ、俺が読書を始めた夕方頃。
……がららっ
「あれ?ココ人住んでたんだ?」
飄々とこの女は窓から入ってきた。
最初は殺しとこうかと思ったが、害がなさそうなので放っておいた。
それ以来、何故か来る。
しかも決まって、窓から。
そして、夕焼けの見える日に。
本人曰く
「メロが来る前から私は夕方にココで小説打ってたんだ。
ほら、ココから見える夕日が好きなの。創作意欲が湧くっていうかさぁ…」
だそうだ。
それから俺が夕方を気にするようになり、雨の日に機嫌が悪いことを、コイツは知らないのだろう。
「なぁ…」
「ん?」
「何でいつも窓から入ってくるんだ?」
「ぇ?だって正面からだと怖そうな人沢山いるしさぁ。メロに会えたらそれでいいし、私」
……今の不意打ちだろ。
くっそ、嬉しくなんかないっての。
どうせ…移動しなきゃならないんだ。
……会えなく、なるのか……この変な、女に。
今日こそ、はっきりさせたい。
「…あのな、オマエここ以外の夕焼け見る気はないのか?」
「ぇ?」
「いや、その……そろそろ移動しなきゃならないんだ…だから……」
「ココからの夕焼けが好き」
「……そう、かよ…」
「でも、今はメロの方がもっと好き。…他の夕焼け、見せてくれるの?」
嬉しさで体が震えたのは、初めてかもしれない。
「ぁぁ…いくらでも」
「ついていっていいの?」
「勿論」
今度からコイツは俺の部屋に、ちゃんとドアから入ってくるだろう。
2人で夕焼けを見るために、これから俺の部屋は見晴らしのいい部屋にしてもらおう。
「…そういえば、」
「ん?」
「…名前、教えてくれ」
「あれ?言ってなかったっけ…?」
くすくす笑うのが何だか愛しくて。
そっと抱きしめた。
俺の背中にも手がまわる。
「私の…名前はね……」