「Lってホントお菓子食べてる時は幸せそうだよね」
ある日、オヤツの時間。
そう言って貴女が私を見て微笑んだ。
< L 『 幸 せ な 時 間 。 』 ( キ ャ ラ メ ル
ver. ) >
………幸せ?
今まで考えたことがあまりなかった。
どんな時に私は幸せを感じるのだろう。
たくさんあるはずなのに上手く言葉にならない。
霞みの中に手を入れているみたいだ。
喉のあたりでぐるぐる渦巻いては霧散していく。
だから、貴女に尋ねてみた。
「…貴女はどういう時に幸せを感じますか?」
「え、えぇ??」
唐突でしたかね。
それでも一生懸命考えてくれる貴女が好きですよ、私は。
無意識のうちに笑みながら、アップルパイを口に運ぶ。
「ぅぅん、どうだろう。上手く言葉にならないなぁ」
そうですか。
やっぱり貴女もそうですよね。
「ぁ、でもね、今はすごく幸せ」
自分でも。
今、間の抜けた顔をしているような気がする。
そんな私に気付かずに貴女は嬉しそうに紅茶を口に含む。
「他に…なんだろう。沢山沢山ある気がするの」
私も、そうですよ。
「気付けば沢山あるんだね、幸せって」
そうですね。
でも、以前もそうだったかどうか、思い出せないのです。
そのままオヤツの時間は終って。
私と貴女はいつものように、つかず離れずの時間を過ごす。
いつの間にか日はとっぷり暮れて、夜の帳が降りてくる。
そうして眠そうな貴女は目をこすりながら私に尋ねた。
「ねぇL、今日は寝るの?」
「………そうですね、この仕事が終れば寝ます」
「何時頃終わる?」
「あと一時間もかかりません」
「……待っててもいい?」
それは。
一緒に寝てもいいか、というのと同意義である。と、私は知っている。
けれど。
抱くというのととはまた別である。と、いうことも私は知っている。
なんだかくすぐったい、感情が在る。
ただ知っている、というだけ、なのに。
「いいですよ」
私がそう答えると貴女は本当に嬉しそうに微笑む。
早く仕事を片付けようと、心底思う瞬間だ。
本を読んで時間を潰す貴女を後ろにして、かちかちかち…とキーボードを叩きながらこれも幸せのカタチだと感じる。
ぁぁ、そうか。
つまり私は………
「終りました」
「お疲れ様!先にベッドに入っとくね?」
「はい、どうぞ」
パソコンの電源を落としながら、貴女の背中を見送った。
軽く水分を取って、寝室へ向かう。
ベッドに滑り込めば、そこは既に温かく柔らかい。
暗がりに目が慣れてくると、貴女の顔がよりはっきりと見えてくる。
柔らかく微笑んで頬を摺り寄せてくる、甘えん坊の貴女も、私はとても好きなんです。
その温かな体を、愛しくて愛しくて、しかと抱きしめる。
自分の心に溢れてくる気持ち。
柔らかな光のようなこの感情を、私は知っている。
「今、とても幸せです」
「ぇ?」
その滑らかな髪を指に絡めて遊ぶ。
「今日気がつきました。貴女が隣にいると、とても幸せなんです。とても…普段よりも」
少し、間が空いて。
何か変なコトを言ったのかとちょっと不安になる。
「あの………、………!」
覗き込むと貴女は。
頬を真っ赤に染めていて。
「私も、そうだよ」
ぽつり、呟く。
それがやはり愛しくて、幸せで。
暗がりの中で見詰め合って。
くすぐったくて微笑んで。
どちらからともなく、そっとお互いの唇を塞いだ。