< ニ ア 『 ば か 』 >















「ばか」



私は、目の前の無神経精密機械男に向かって言ってやった。



「ばか、ばか、ばか、ばか、ニアのばか」



ニアは、何も言わない。

ただ私の目の前に立って、私を見下ろしている。
無表情で私を見下ろしている。

私は無表情なニアを思い切り睨みつけている。



「ばか」



私は震えていた。

怒りと、恐怖で。



「ニアは、ばかだ」



キラを本格的に追いかける、なんて。
それがどんなに危険なことかわかって言ってるの?本当に。



「ばか、ばか、ばか………」



駄目だ、泣きそう。



「ニアのばか………」



キラを追いかける。
その危険性をわかっていて、ニアは言った。


私についてきて欲しい、だなんて。


そんな。










「ばかぁ………」



とうとう涙が溢れてきた。

たまらなくなってニアに縋りつく。
ニアは最初驚いたみたいだけど、やがて私をそっと包み込んだ。

私の頭を撫でるニアの手はとても優しい。



ニアの声が、耳元に降ってくる。


「私はもうずっと、キラについて調べてきました」

「知ってる………」

「決して、好奇心のみで動いていたのではありません」



知ってるよ。
ずっと、見てた。

いつかくる今日に怯えながら。



「この4年間、できうることは全てしました。これから、キラに対して私の存在を誇示せねばなりません。
 おそらくそうでなければ、キラを捕らえることなどできない」

「…ニアの………ばか」

「………あの、」

「ニアは」


ニアの台詞を遮った。
私はニアの腕の中にすっぽり包まれたまま、その肩に頭を置いて告げる。

不安に負けてしまいそうだから、ニアの目は見なかった。





「ニアは、ばかだから、私がついていってあげる」





一瞬、沈黙。

次に、ニアの腕に力がこもった。





「…ありがとう」





ニアの声も、震えている。

涙が一筋、頬を伝った。





「ばか………」