この空間は何かに侵されている。
どろりとした何かで満たされている。

さっきから私は椅子に座っている………。















   SPACE















どうしたことか、何もやる気が起きない。
いつからこうしているのか、いつまでこうしているのか。

目の前でパソコン画面が光っている。
文字がだらしなく羅列されている。
それをただ私は…ぼんやり見ている。

動こうとすると、どろりとした空間がそれを邪魔する。



ほら。

手を動かすのも煩わしい。



何もかも面倒くさい。



“…何故こんなことに?”



前までこんなことはなかった。



“…何故なかった?”

“…何が起きた?”




さっきもこんなことを考えていた気がする。
結局、わからない。

決定的な「何か」が欠けている。
私は俯いていた首をもたげた。

決定的な「何か」。

何か─────………。





「ただいまぁっ」





その声に体がぴくりと動いた。
ばたばたと騒がしい足音が聞こえる。

何かが………何かが体の中で目覚めゆく。





「える───っっ」





 ばんっっ





背後で扉が開いた。


その、瞬間。





背中から、頭のてっぺんから、つま先から。

風が…吹き抜けた。

悪いもの、汚れたもの、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ。

体の中から、消え去った。





「ギャー!!何この部屋っ、空気悪っっ!!」



キノコ生えるーっとか言いながら彼女は私の横を通り過ぎた。
そうして目の前のカーテンを勢いよく開け、窓を開け放つ。

私は急な光に眩暈をおぼえた。

そのままゆっくりと、彼女の名を呼ぶ。



「───。」

「ん?なぁに?」



くるりとは振り向いた。
そして私を見て、くすりと笑う。



「ワタリさんが心配してたよ。珍しいね、煮詰まってるの?
 それともなんだい?結局チャンがいないとダメダメなのかな?Lクンはさ」

「自惚れないで下さい」



からかうようなのセリフに、立ち上がりながら答えた。
もう先ほどのような気だるさはない。



「はいはい」



そう相槌を打ちながらも、はなんだか嬉しそうで。
私自身、説得力がないなと思って苦笑した。



欠落していた決定的な「何か」。
私は柔らかく微笑むに歩み寄った。



認めたくない。

認めたくないけれど───…。

私はずっと待ちつづけたそのヒトを強く抱きしめた。



「おかえりなさい、


「うん、ただいま、L」