青空の下に在るのは、ワイミーズハウスと呼ばれる選ばれた子供達の孤児院。
15 たいようよりつよいひかりで
昼下がりの一室に居るのは、オトコノコとオンナノコ。
オトコノコの目の前には、白いジグソーパズル。
絵柄のないソレ。
彼はぱちりぱちりと欠片を埋めていく。
彼女は隣で臥して、ぼんやりとソレを見ていた。
初夏の心地よい風が、昨日洗濯されたばかりの白いカーテンを揺らしている。
足をぱたぱたさせながら、不意に彼女は口を開いた。
「ねぇニア」
「はい」
「どうして太陽をそのまま望遠鏡で覗いちゃ駄目なの?」
パズルのみに注がれていた彼の黒い瞳がゆらりと揺れた。
色素の薄い濃い茶の瞳が、自分を覗き込むような視線を送っている。
彼の白い前髪が、パズルをはめる度に小さく、揺れた。
「……レンズの性質上、普段よりも強い光によって眼球が焼かれてしまうからです…失明のおそれがあるのです」
何のことはない、ただの知識だ。
「へぇ、そうなんだ!やっぱニア物知りだよねぇ」
それに、納得したような明るい声が返る。
彼の黒い瞳が、彼女の方へゆるりと向けられた。
「……だから覗いちゃ駄目ですよ」
「はぁい、覗きませんっ。ふふ、ありがとう」
「?」
「心配してくれて。アレ、違う?」
彼の手が、止まる。
暫しの沈黙が降りる。
やがて。
ぱちり……ピースがひとつ、埋まって。
「いえ……あってますよ」
「こっそり優しいよね、ニア」
彼女はひそりと口元を笑ませた。
視線を床に落として、手の中でピースをひとつ弄んで居る。
彼の手が再び止まった。
その瞳が、完全に彼女を映して。
ゆっくり、口を開こうと。
「おーい、ー!」
「!」
「あ、メロだ。何だろ」
そこで二人の静寂を割った声。
彼女は手の中のピースを落とし、上体を起こした。
自分を呼ぶ声がするから。
彼は口をつぐんだ。
「じゃ、またねニア」
「はい」
太陽より
彼女が部屋を出て行く。
その背中だけ、見送る。
強い光で
彼女が振り返った。
手を振って。
眩しい笑顔だけ残していく。
この眼が見えなくなれば
廊下に出た所で他の誰かの存在に気付いたらしい。
その誰かにまた、笑顔を向けて。
いい。
完全に彼の視界から彼女が居なくなる。
けれど彼は暫く、そのままで。
君の姿を追うことがないように。
やがてまたうつむいて。
パズルの隙間、埋めていく。
ぱちり、ぱちり。
静寂に音だけが響いた。
胸の痛むことがないように。
ぱちり、ぱちり……