ずっと扉の前で立ち止まってる。
ノックしようかしまいか迷って、時々溜息ついている。
アイツ、いつまであそこで立ってるつもりだ?
おかげで勉強に集中できない………苛つく。
耐え兼ねて僕は言った。
「、入って来いよ」
その言葉に、とうとう扉ががちゃりと開いた。
チョコチップクッキー
開いた扉からがするりと入って来た。
後ろ手でパタン、と扉を閉める。
部屋が暗くてよくの顔が見えない。
夜なのにこの部屋はパソコンにしか電源が入っていない。
僕の目の前のパソコン画面のみがこの部屋の光源だ。
暗がりからが声をかける。
「どうして私が外にいるってわかったの?メロ、すごいね」
「別に」
にへら、と笑うに僕はそっけなく返した。
今は邪魔しないで欲しい。
暗い暗い部屋の中で、僕はに一瞥することなくパソコンと書物に向かっている。
今度こそ。
今度こそニアに勝つんだ。
僕の視界の端でがしゅん、と肩を落とすのが見えた。
コイツは、いつも「三番」だ。
ニアが「一番」、僕が「二番」、が「三番」。
が今まで僕に勝ったことはない。
が、機嫌の悪い僕におどおどと顔を上げた。
「ね、メロ。電気つけよっか?目が悪くなっちゃうよ」
「余計なことするな」
あぁ、またやってしまった。
がまた肩を落として俯いたのが視界の端に映った。
苛々する。
自分にも、にも、何もかもに。
全てが上手くいかない。
自分でも自分の機嫌が悪いのがわかる。
だからには僕に構わないで欲しい、いつもいつも。
結局は傷つけてしまうのだから。
「何の用だよ」
苛々しながら僕は言った。
目は相変わらずパソコンに向けたまま。
「ねぇメロ。メロはどうしてもニアに勝ちたいの?」
「あぁ」
「一番に、なりたいの?」
「あぁ」
「………私はどっちも同じくらい好きだけど」
また、始まった。
僕は溜息をついて顔を顰めた。
の方を見る。
暗がりではまた無理してにへら、と笑った。
あぁ、ムカツク。
『どっちも同じくらい好きだけど』
それが一番ムカツクってことにコイツは気付きやしない。
僕がの中でも一番になりたいことに気付きやしない。
ムカツク。
笑うなよ、ムカツク。
「あのね、メロ」
早く出てけよ、て言いたいのに言えない自分にまた腹が立つ。
コイツがいると調子が狂うんだよ。
「えっと、チョコチップクッキー作ったんだ!」
扉付近で立ち止まっていたがパタパタと僕のほうに近づいてきた。
僕は顔を顰めてを見た。
が僕の目の前で立ち止まって、すっ、と紙袋を差し出す。
ふんわりと甘い香りが漂った。
「………食べて?」
が首を傾げた。
そんな顔で見るな。
僕は今忙しいんだ。
お前の相手なんかしてる暇ないんだ。
嬉しくなんか無い。
今度こそニアに勝つんだ。
「…いらない」
僕はパソコンの方を向いた。
期待に満ちていたが翳った。
「そっか………」
そう言っては紙袋を下げた。
そんなに傷つくなよな。
傷つけたのは自分だとわかっていながら勝手なことを思う。
ムカツク、ムカツク、ムカツク。
全てが上手く行かない。
「どうせニアの分も作ったんだろ、両方ともアイツにあげちまえよ」
ヤケクソ混じりに言った。
あぁ、本当に最悪だ。
早く出てけ。
ニアの所にでもいっちまえ。
二人で仲良く食えばいーだろ。
「…ニアの分は、ないよ」
震えるようなの声。
―――は?
ニアの分は、ない?
「メロの為だけに作ったんだもん………」
……僕の為だけ?
その言葉が意外すぎて僕は思わずの方を見た。
は俯いたまま。
「ロジャーがさ、メロが晩ご飯ほとんど残したって心配してたから…甘いものなら食べるかなー、と思って………」
が顔を上げた。
僕と目が合って、またにへら、と気の抜けるような笑い方をする。
「でも、メロいらないか。じゃぁ、そうだね、ニアにあげることにしようかな……」
「………っ、食う」
自分でも驚くほど素直に言葉が出た。
その言葉にが目を点にしている。
「…へ?」
「食うっつってんだよ」
よこせよ、と僕は手を差し出した。
あまりにが間抜けな顔をしているから、自分の言葉に僕自身戸惑った。
そんなそぶり、見せないようにはするけれど。
は僕の顔と僕の手を、きょとんとした顔で交互に見た。
そして。
そして満面の笑顔で。
「うんっ!」
嬉しそうに紙袋を僕に手渡した。
紙袋を開けると甘ったるい香りが僕の鼻腔をくすぐる。
手をつっこんでクッキーを取り出す。
ひと口齧ると、さくり、と小気味よい音がした。
隣でがそれを見て終始嬉しそうにニコニコしている。
「………意外と、美味い」
「ほんとっ?!」
ぽつりと呟いた言葉に、やったぁ!と隣で万歳している。
僕は二枚、三枚と次々と口に運んだ。
どうやら無意識の内に腹は減っていたらしい。
やがて袋の中のチョコチップクッキーはなくなってしまった。
少し、物足りない。
袋の底を覗き込んでる僕に、がとんとん、と肩を叩いた。
振り返ればにんまりと笑っている。
「ね、おかわりあるよ。………いる?」
………!
こいつ……っ。
コメカミあたりの表情筋がひくつくのを感じた。
僕がおかわりするものと確信しながら尋ねているのがその笑顔でわかる。
……負けた。
「…ん」
僕は顔を顰めて、空になった紙袋を差し出した。
途端に嬉しそうな顔をする。
紙袋を受け取ると、すぐに持ってくるからね!と嬉しそうにスキップしながら出て行った。
その後姿を見送った後、僕は再びパソコンに向かった。
表情が、崩れていくのがわかる。
「…くっそ………」
思わず歯軋りする。ホントむかつく。
アイツがいると調子が狂う。
でも………。
今回はこれで、よしとする。
僕は扉の方を見た。
アイツが走ってくる音がする。
きっとあの満面の笑顔で扉を開ける。
あと10秒………あと5秒………3、2、1………。
ばたんっ
「メーロ!!!」
そらきた。