携帯を手に、空を見上げた。
雲の動きが、早い。

たまに逢って、体だけを求め合う関係。


そんな関係を彼/彼女と始めたのは、いつ頃だっただろう。








   B i t t e r s w e e T






と出会ったのは、とあるパーティー会場。
何のパーティーだったかはもう忘れてしまった。
誰かの受賞記念だったように思う。

そこで出逢い、磁石のように引き合い、求め合った。
あの時のあの不思議な熱は一体何だったのか。

名前を聞かれ、とっさに“竜崎”とだけ答えた。








  あの朝、目が覚めたら竜崎はいなかった。
  見知らぬ携帯だけが置いてあって。

  私はついそれを持って帰ってしまった。








もう会わないつもりだった。
一夜限りなんてよくあるハナシ。


しかしそうであるならなぜ。

私はあの時携帯を置いて帰ったのか。

そして何故、連絡してしまったのか。


私にはやらなければならないことがある。
現を抜かす訳にはいかない。
これっきりにしよう。
そう思うのに。

時間があればその度にに、逢いたくて。


けれど、“愛してる”とは言えなかった。








  もう会わないつもりだった。
  一夜限りなんてよくあるハナシ。


  しかしそうであるならなぜ。

  私はあの時携帯を持って帰ったのか。

  そして何故、再び会う約束をしてしまったのか。


  会ってはいけない理由が私にはあった。
  だって曲がりなりにも私には、恋人が、いたから。
  なのに。
  これっきりにしよう。
  そう思うのに。

  竜崎から連絡がある度に心躍って。


  けれど、“愛してる”とは言えなかった。








このままじゃいけない。
そう思っていたある日、が恋人の存在をほのめかした。


ショックだった。


にそのような存在がいたことも。

そうでありながらが私に抱かれていたことも。


は私にそのような関係を求めていたのか?


潮時…なのだろうかと、思った。








  このままじゃいけない。
  私は恋人と竜崎、どちらを愛してるのかわからなくなってきた。


  竜崎と逢えない日々を恋人で埋めているのか。

  竜崎と逢うことでスリルを楽しんでいるのか。

  どちらにしても私は最低だ。


  このままでは、いけない。
  合理的に考えて、私は竜崎から離れようと思った。
  何も教えてくれず、逢うのも一方的で。
  だからある日、恋人の存在をほのめかした。


  もう連絡はないだろう。


  勝手だけど、そう思うと泣きたいくらい悲しかったのは真実。








私はの中で一番に愛されることはない。

それでもいいから、逢いたい。

連絡を取らなくなってから、そう思っていることに気付いた時愕然とした。


とどのつまり私は、彼女を……。








  恋人がいると知った後でも、竜崎から連絡があった。

  ショックだった。

  竜崎は私に、そのような関係を求めていたの?


  けれどもっとショックだったのは、何も聞かずそれを受け入れてしまった私自身。
  竜崎に、逢いたかった。


  とどのつまり私は、竜崎を……?











けれど、/竜崎が求めているのは、そういう関係。


それでも、いいと、思ってしまった。




















携帯を鳴らす。

携帯が鳴る。


それが、合図。





「もしもし、竜崎?」

「こんにちは、。急なんですが…今夜は駄目ですか」

「今夜?ホントに急……明日は約束があるのだけど、朝までなら大丈夫」

「じゃぁ今夜。今回はこちらに来て頂けますか?」

「わかった、今日は何処?」

「場所は……、」










そして私たちは。





今夜も、闇を抱く。


















…?」

「ん……、」


気だるさとまどろみの中で名を呼ぶ。
するりと腕の中に滑り込んだを、抱きしめた。

この温もりも薫る髪もその全てを。
愛しいと思っていることを否定できやしない。
今更そのような足掻き、愚かでしかない。

そっと首元に顔を埋め、肩に唇を落とす。

愛してほしいだなんて言えない。
それは彼女の苦悩の為ではなく、私自身が拒絶に傷付かない為のエゴ。


けれど。


ただひとつ、尋ねるくらいなら…許されるはず。









、貴女は私が死んだら、悲しんでくれますか」









  竜崎が急にそんなことを言い出すから、私はとても驚いて。
  その裏に含まれる意味を理解しようと思ったのだけど、できなくて。

  ただ、うん、と言った。
  そして、とても、と付け加えた。

  ふと思いついただけなのだろうか。
  それともそんな危険があるのだろうか。
  胸の内を激しい不安がよぎったのだけど。


  ありがとうございます、と竜崎が。

  笑った、から。


  もう何も考えたくなくなって、私は更に竜崎にしがみついた。








の温もりが睡魔を連れてくる。


もう少し、あともう少し待って欲しい。

今この腕の中で寝息を立てている人はいつも。

私が目覚めた時には、もういないから。


もう少しだけ、意識を。


重い瞼が閉じられていく。
幸せと哀しみのない混ぜの中。

私は静かに…眠りについた。








  ゆったりとした温もりの中、目覚める。

  隣に、竜崎。
  無心に眠る様は、あどけない。
  その髪をそっと手で梳いた。
  柔らかな、髪。

  時計を確認する。
  もう、行かなきゃ。


  でも………。


  もう一度、竜崎を見た。


  眠る直前のやり取りを思い出して、私は。

  例えどれほど傷つくことになったとしても、構わない。

  そう、思えたから。



  ああ、今日はこのまま寝てしまおう。


  この穏やかな温もりをもう二度と、手放したく、ないから。



  一度起こした上半身を、再び竜崎にすりよせた。

  瞳を、閉じて。
  睡魔が、やってきて。





  ねえ、竜崎。



  目覚めて私が隣にいたら。



  貴方は何て言うのかな……………。



















<...Thanks! The 1st anniversary!! ---written by Suzuki Karasu>