最近ずっと雨ばかりだったのに、今朝カーテンを開ければ眩しいくらいの青。
一人でに心浮かれて、ベッドの上、膨らんだ掛け布団をがっとつかんで揺さぶって見た。



「ねぇ」

「ねぇったら」



やがて私が動かさずとも、それがもぞりと動いて。



「………ンだよ」



不機嫌そうな、眠そうな、声。
枕に流れる金色の髪が光の中で、綺麗。

顔は布団で覆われているのだけど、表情なんて声から想像できちゃう。



「晴れたの。出かけようよ。約束したじゃん」

「…ねみぃ………………」



布団から顔半分がひょこりと覗いた。
かと思うと彼は欠伸を噛み殺し、私を軽く睨みつけるように目をしばたかせて。
そうして溜め息ひとつ、再び布団の中へと潜り込んでいく。



「もうっ!メロー!!」



流石に私、いらっと来てベッドの上で馬乗り。
つれない恋人の名を呼びながら、ぼすぼすっとランダムに布団の盛り上がりを叩いてみたのだけど。



「………………」



うんともすんとも言いやがらない。



「いいよもう、わかったよ。バカメロ。一人で行く。ばいばい」



結局私は膨れっ面で寝室を出た。















   雨のち晴れの日















一人でご飯を済ませて、一人で家を出た。
外はやっぱり晴天、昨日までの雨で濡れた若葉が青々としている。



メロと一緒に出かける約束をしたのは三日前。

晴れたら出かけよう、と言っていた。



別に何処に行きたいって訳でもなかった。
ただ単に一緒に出かける時間というのを過ごしたかっただけで。
そりゃ確かに私の我儘なのかもしれない。

けれどそれを約束した時点で、私がそれを楽しみにしていたのは確かで。
ここ三日ほど続いた雨を、それはそれは呪っていたというのに。



なんだか、意気込んでた分脱力感も数倍。



何だかその脱力感でどうしようもなくなったので。
とりあえず自販機で飲み物買って、それを公園のベンチに座って開けた。

空の青さが今度は何だか憎らしくて。
溜め息ついて液体を口に流し込む。





そうやって落ち着くと湧いてくるのは、後悔。

なんだってあんなイライラしたんだか…。





メロが一緒に出てくれないのだってきっと理由があったりなかったりで。

それを一応はわかっているのだけど、そう上手く私も自分を制御できない訳で。


結局いつもこうなってしまう。





メロと口喧嘩だなんてしょっちゅうだ。
些細なことやしょうもないことで良く口論する。
それなのに傍にいるのだから不思議。

そういえば、昔もなんか変な喧嘩したなぁ………。

若葉の陰から雨の匂い。
ふとした記憶が脳の隅から転がり出てきた。



あれはそう。

二人ともまだワイミーズにいたころの話。















しとしと、しとしと………外は雨が降っていた。
ザァザァと激しくもないけれど、ぱらぱらと弱くもなかった。
重く垂れこめた雲、部屋は電気を点けなければ暗いぐらい。

私は扉の近くに立っていた。
部屋の中、二人。
積まれた本に熱気を放つパソコン。
椅子に座っているのはメロ。



「ねぇメロ………あのね」



私はノートを握り締めていた、いつも。
だってこの時のメロはいつも瞳がとても真剣で怖いくらいで。



「………か。今は、忙しいからまた今度な」



返って来るのはこんな応答。
でもそれで引き下がる私でもなかった。



「メロはいっつも勉強してるよね、テスト前は」

「…別にいいだろ、そんなこと」

「そんなに一番がいい?」

「………………」

「メロ、目が悪くなるよ?…こんな暗い中じゃ」

「………ウルサイ、



その言い草にむかっときて。
そう、そしていつもの言い合いに。



「ウルサイって何よ」

「勉強に集中できないってんの」

「何よ、勉強勉強ばっかり。バカメロ」

「バカってなんだよ。お前の方がバカだろ?」

「人間的にバカだってんのよ、バーカ!勉強ばっかりの頭でっかち!!」

「うっさい、出てけ!!」

「なんでそんなに一番に執着するのかわからないよ。これだから秀才サマは」

「あー、わからないだろうな。お前のそのノーミソじゃ!」



ひとしきり言いたいこと言い合って。
軽く息切れしながらにらみあう。

やがてメロは溜め息をつく。

頭がいいせいか、いつもメロの方が先に冷静になる。
頭の問題じゃない…きっとメロの方が私より大人なんだ。



「だいたいお前何しに来たんだよ」

「そんなことおメロ様にはどうだっていいんでしょ?どうせ」



つん、と顔を逸らした。
メロは机越しに眉を顰める。



「ちょっと待てよ、何拗ねてんだよ」

「拗ねてないよ。メロなんか一番のコトばっかり考えてりゃそれでいいんでしょ!」

「だってそれは!」



そう言ってメロは椅子から立ち上がって。



「いっつもいっつも勉強の時はニアのことばっかり」



そんなメロを私は睨みつけて。

メロも私も、同時に、口を開けて。







「だってお前だって一番のニアに勉強訊きに行くだろ?!」



「そうやっていっつも私、寂しいんだから!」







そのままの状態で。


しばらくの、空白。







((………………あれ?))







そろそろと、目を逸らす。







今の台詞、お互いに。


何か含みがありませんでしたか。







「………メロ」

「………んだよ」



気まずい空気。

私は足元に視線を落としていた。

心なしかメロの返事もぎこちなかった。



「用事、なんだけどさ」

「…ぁぁ」



そうしてそろそろ、と手に持っていたノートと筆箱を頭の上に掲げた。



「勉強教えて下さい」

「…!!……ん………」



肯定とも否定とも似つかない返事に、そっと顔を上げて見れば。

メロが口元に手を当ててそっぽを向いたまま。


それでも手だけは「来い来い」と振ってくれていた。















「はぁ……懐かしい」



あの頃はまだ可愛げもあったなぁ、とか思ってみたり。
それは私にも言えたことか………と溜め息再び。

目を閉じて、弄んでいた缶の中の液体を飲み干した。

カラッポになってしまった缶。
少し足りない気もしたけど、なくなってしまっては仕方がない。
ベンチから立ち上がって、ゴミ箱を探した。

やがて見つかったそれ。
缶を投げ入れようとして手を振った。



「おい、

「わひゃぁ?!」



見当違いの方向に飛んでいってしまった缶。



「めっ、メロ?!!」



慌てて振り向いてその姿を確認して。
それからてちゃんと缶を拾いにいった。

がしゃん……と今度こそ空き缶をゴミ箱へ。

いきなり急成長したメロが目の前に。
思い出したばかりだから、そんな気がした。

そそくさと照れくささ混じりにメロの所へ戻ると、何だかメロが呆れ顔で。



「………………お前何笑ってるんだよ」

「え…えー?思い出し笑い………」

「………エッロ」

「ンなっ?!メロに言われたくないよ!!」





そうだ。

些細過ぎる口喧嘩。


それですらも時々、堪らなく愛しくて楽しくて。





「行くぞ」

「え、何処に?」





歩き出したメロの背中を追いかけようとしたら。

メロが少しだけ、肩越しに振り向いて。





「何処だよ。お前が言い出したんだろ………?」





少しだけ、照れてるように見えたのは気のせいじゃないよね?





「えっと、えっとだね!」





今朝のことなんて何処吹く風。



きっと私達はそれでいい。


同じコトを繰り返しながら…一緒に進んでいけるんだ。





嬉しくなった私はメロの隣に駈けていって。





とりあえず。


近所の美味しいアイスクリーム屋の名前を挙げてみた。




















<...Thanks! The 1st anniversary!! ---written by Suzuki Karasu>