場所は某高級ホテル、最上階のスィートルーム。
久しぶりに会えた恋人は、ずっとパソコンとにらめっこ。
私はソファに座って、英語の講義で出た課題の和訳なんかをしていた。
あいのことばを
パソコンとにらめっこしている恋人の名前はL。
世界最高峰の頭脳、なんてものを持っているとんでもないヒトだ。
ひょんなことから知り合って、そんなヒトの恋人をしているのが私。
日本に住んでいるごくごく普通の大学生。
あ、いやこんな恋人が居る時点で普通じゃないのかな。
とにかくLは一度忙しくなると本当に忙しくて、会うことだってままならない。
だいたい、日本に居ることさえそう多くない。
だから私、こんな風にたまたま会えても放っておかれるの、大分慣れてるの。
平気、て訳じゃあないんだけどね。
今日も朝からLはパソコンとらぶらぶだ。
…お仕事してる訳だから、らぶらぶ、は不謹慎かな。
そうっと振り向けば見える背中。
かなりの猫背。
つまんないな、つついてやりたいな、とは思いつつ再び和訳に取り掛かる。
まだ、Lのことを気遣う余裕があるの。
お仕事の邪魔をしたくない、て思う余裕があるの。
───和訳に、集中しなきゃ。
一体全体、一週間の間にどんだけ英語を和訳せよと言うのかあのヒゲは。
なんてぶちぶち心の中で大学の教授に文句を言いつつ分からない単語を調べるのに集中して、いれば。
ぎしり。
不意に隣で音がする。
同時に隣の空間に何かがいる気配。
振り返ったらさっきまで向こうに居たハズのLが其処に居て。
びっくりして目を丸くした私。
そんな私を尻目に、ぼんやり虚空を見つめながら親指で自分の唇をもてあそんでるL。
変な座り方が好きで、ソファの上でさえ三角座りをしている。
まぁそれはもう私にとっては全然珍しくないんだけどさ。
そしたらふと、Lはその真っ黒な瞳を私に向けた。
ぎょろんとしたLの瞳は独特の光を持っている。
何を考えてるのか分からないその瞳を、私はただ見返してる。
「」
「ん、なぁにL?」
「愛してる、て言って下さい」
唐突な申し出。
私、またまたびっくりして暫く固まった。
何を言ってるのだコイツは。
「………や、やだよ」
ようやく出せた声は弱々しく。
何だか赤くなってる気がする。
恥ずかしいからLから目を逸らした。
「嫌なんですか」
残念そうな、そうでもないようなLの声。
しかしこう、視線はがっつり感じる。
何か、耳のあたりに。
「何言うのよイキナリ。そんな改まって言うの恥ずかしいに決まってんじゃん!」
「そうですか……」
今度はちょびっと残念なんだな、てわかる感じの声だった。
だから私、ちょっとだけ考えて。
「…Lが」
「?」
「Lが先にゆってくれたら、いいよ」
と、いう提案。
私、頑張った。
「イヤです」
即答。
「ずるいですよ」
「……………」
じゃあオマエはどうなんだ!と言いたくなったけど、そこは飲み込んで。
しかしあまりのワガママぶりに唖然とはしつつ。
からかってるのかな?それとも疲れているのだろうか。
…かといって言えるかと言われればそれは恥ずかしくて。
「そ、それでは…ご一緒に」
せめてもの妥協案。
そうっとLの方見たら、Lの口元、笑みのカタチ。
Lの方がよっぽどずるい。
「……せーの」
「「愛してる」ます」
「………馬鹿みたい」
重なった言葉に顔が熱い。
血が顔に集まってるのがわかる。
ぽつりと呟きながらうつむいたら。
「」
「何」
「襲っていいですか」
「………ぇえ?!」
またまたあんまりに唐突で。
言葉を理解するのにちょっと時間がかかった。
その間にLは手を伸ばして私の腕を捕まえてて。
「いいですよね?」
そう尋ねてくる瞳は相変わらず普段どおりの黒。
でもどうやら冗談じゃあ、ないみたい。
オマエ一体仕事はどうした、終わったのか。
「な、なんでそうな……っ!?」
「ありがとうございます」
反論する前に礼を言われた。
誰もまだ承諾してないって……!
そうこうしてるうちにいつの間にやらソファに組み敷かれている私。
見上げるとLが何だか嬉しそうで。
さっきのワガママにしたって…仕方ないな、なんて思っちゃうあたり。
私、やっぱりLが大好きなんだろうなぁ、もう。