「私は、キラと同じなのかもしれませんね」
ある日、Lがそう呟いた。
afternoon repose
日曜日の、なんとなく気だるい、ひっそりとした昼下がりだった。
空はただひたすら青く、ときどき雲は陽を隠しては去っていった。
カーテン越しに入る風はほのかに暖かく。
久しい、休日。
私が借りているアパートで、陽が天高く昇るまで二人で眠った。
春めいた空気でも夜は冬を連れてくるから。
闇に飲まれぬよう、凍えてしまわぬよう、二人で背中を丸め、あたためあって。
いれたての紅茶を、私はベッドに座っているLに渡した。
「ありがとうございます」と言って受け取るL。
私はLの隣に腰掛け、熱い紅茶をすすって、深く息をついた。
まだ少し、ほのかにだるい体。
その中心を通る熱い液体と、そこからじわりと広がる熱の感覚を楽しむ。
ふと、思い出してLに尋ねた。
「さっきのは、どういう意味?」
「え?」
「Lが、キラと同じ…って」
「…聞こえていたのですか」
そう言ってLは少し困ったように頭を掻いた。
「わからなく、なってきたのです」
「…何が?」
「何が、正義なのか」
Lは、手に持った紅茶の揺れる水面をじっと見ていた。
「私は今まで、私は正義だと、キラは悪だと、そう信じてやってきたつもりです」
「……………」
「しかし、本当にそうなのか、わからなくなってきました。
私は、何のためにこんなことをしているのか…してきたのかが見えないのです」
ばさばさばさっっ
庭にいた鳥が突如飛び立った。
その瞬間、意識はそちらに奪われ、二人してその鳥を見送る。
今度は沈黙が舞い降りてきた。
次に、口を開いたのは私だった。
「キラって、本当何を考えてこんなことしてるのだろうね」
「………」
「キラは、Lの考えでは単独犯でしょ?孤独じゃ…ないのかなぁ」
「孤独…かもしれませんね」
私には、が/Lが、いるけれど。
キラ、おまえ/あなたには誰かいる?
「ねぇL、正義の絶対的判断基準なんてないよ」
紅茶を、また一口飲む。じわり、広がる熱。
「正しいとか、正しくないとか、ほんとは誰にも普遍的になんて定義できない」
「……………」
「‘逃げ’かもしれないけど」
隣にいる愛しい人を見る。
陽に透けた黒い髪や、その細めの首や肩が消えてしまいそうな気がして、私はそっと寄りかかる。
Lの体温が、感触が、その存在を確固たるものにして私の心を安堵させる。
この、右から伝わってくる熱のみ、が。
今この世界で私とLを繋ぐ唯一のものであるかの様に感じて、私は切なくて泣きそうになった。
しばしの沈黙。
時計の針が進む音が膚に刺さるかと、思った。
沈黙という名の音が、のしかかってくるようにさえ感じた。
私はこの人に、何かしてあげられるのだろうか。
「私は、自ら望んでLといる。Lの傍にいる」
結局は何もしてあげられないのかもしれない。
「Lが望む限り、私はLの傍にいる…ずっと」
「…」
「真理も普遍もないのなら、私は私の信じることをする」
そっとかすめるようにくちづけた。
「だからLは、Lの信じることを」
返ってきたのは、Lの温もり。
優しく抱きしめられ、私はうっとりと目を閉じた。
空は快晴。
陽は中空。
雲は彼方。
気だるい日曜の昼下がり。
寝床でじゃれあい、惰眠をむさぼる。
時計を見て、お腹が空いたねと笑い合う。
「このあいだ、近所に隠れ家的なカフェ見つけたよ」
「じゃあそこに行きましょうか」
「サンドウィッチが美味しいの。ケーキも沢山種類があったよ」
その言葉に、何気に隣で目を輝かす愛しい人。
許されるなら、この時をずっと…。
気だるい日曜の昼下がり。
私とあなたのafternoon repose
<...Thanks! The 1st anniversary!! ---written by Suzuki
Karasu>